城で襲撃を受けたアポロと私は、二人で城から逃げ延びた…ー。
向かうは街しかなく、力を使い意識が朦朧とし始めたアポロを支え、私は助けを求めた……
○○「すみません! どなたか……どなたか手を貸してください!」
けれど……
国民「お、おい……あれは、アポロ様じゃ……」
国民「アポロ王子……アポロ王子だーっ!!」
(え……?)
街の中は一気にどよめきを広げ、不穏な空気が広がる。
背筋が、冷たくなるのを感じた。
兵士「こっちだーっ! こっちにアポロ様がいるぞー!!」
アポロ「……街の連中まで……抱き込んだとは……」
○○「え……?」
アポロ「父と兄だ……。 ここ最近の力の使いすぎや遠征で。俺が弱っているところを狙っていたのだろう……」
○○「そんな…ー」
アポロ「……くそっ!」
すぐに……ぼっ、とアポロの手の上に炎が揺らぐ。
○○「アポロ……!」
アポロ「っ……ああああああ!!!」
アポロの叫びが天高く響き、激しい炎がその場を焼いた。
○○「いけない……! これ以上力を使ったら……!」
私の声が届いていないかのように、アポロの炎は激しさを増す。
アポロ「くそ……っ!」
皆が足止めを食らっているその間に、アポロに手を引かれてその場を立ち去ったのだった。
…
……
私達は、誰にも見つからない場所を探して、領の外れの洞窟まで逃げ延びた。
到着すると、すぐにアポロは力尽きるように気を失ってしまった……
…
……
それから数日に渡り、アポロは痛みと苦しみにうなされ続けた。
私はただアポロの世話をすることしかできずに、日々を過ごした。
そんなある日……
アポロ「……○○……」
○○「アポロ……!」
連日うなされ続けたアポロが、やっと目を覚ましてくれた。
アポロ「……随分……眠っていたようだ」
○○「はい、でもたった数日です」
アポロ「数日……そうか」
アポロがゆっくりと上体を起こす。
その背に手を添え、私は起き上がるのを手伝った。
(冷たい……)
熱い炎を宿すその体は、今はとても冷えきっていて……私の心を苦しくさせた。
○○「ここへ逃げ込んですぐに、アポロの側近の方が来られました。」
アポロ「何!? 何かされなかったか!?」
○○「大丈夫です。アポロの味方です」
アポロ「そう、か……」
アポロが、安堵と悲しみとも取れる深いため息をこぼした。
アポロ「それで、何か言っていたか」
○○「城と国の状況を教えてくれています。恐らく、アポロの予想通りで……」
アポロ「城は征服され、国は最悪な状況か」
○○「……はい」
アポロ「……」
アポロが苦々しげに、眉をひそめる。
アポロ「まさか……民達まで寝返るとは思っていなかった。 俺は……俺のやり方は、間違っていたのか……? 絶対的な力で導くことこしが、王として正しい姿ではないのか……?」
○○「アポロ……」
哀しげにつぶやかれる言葉に、胸が締めつけられた時…―。
側近「アポロ様……!?」
アポロの側近の方がやってきた。
側近「お目覚めになられたのですね! ああ、よかった……!」
アポロ「ふん……。 貴様、阿呆な男だ。もう少し賢い奴かと思ったが」
○○「アポロ……?」
憎まれ口を叩く姿を、不思議に思っていると……
アポロ「貴様も兄や父に寝返ればよかったのだ。そうすれば、相応の身分も保証されただろう」
側近「そんな、私は……私のお仕えするお方は、アポロ様以外におりません!」
アポロ「……」
深くかしずく側近の姿から目を逸らしながら、アポロが鼻で笑う。
その顔は、わずかに微笑んでいた。
(よかった……)
ほっとしたのも束の間、その日告げられた戦況に、アポロは息を呑んだ。
アポロ「なんだと……」
話によると、先日アポロが制した自治領が再び反旗をひるがえし、城に攻め入ろうとしているらしい。
アポロ「……無能だ。俺がいないと、抑えることすらできんのか」
側近「私は再度、状況を確認して参ります……どうか、ご自愛を」
側近の方が立ち去った後……アポロは苦々しくつぶやいた。
アポロ「……なかなか戦に長けた軍であった。あの阿呆共では、落とされてしまうだろう。 俺は……」
○○「……!」
アポロの瞳に、炎が静かに揺らめいた気がした。
アポロ「……まだ、俺はあの領土の王だ。 王とは、いついかなる時も、国と民を守るもの……」
○○「アポロ……じゃあ、戦場に行くんですか?」
アポロ「……俺の国だ。俺が守らずして、誰が守る」
何も言えずに、じっとアポロを見つめていると……
○○「っ……」
激しく奪うように、唇が重ねられた。
(アポロ……?)
悲しみをつけるような、そして秘めた想いをぶつけるような……
強引で荒々しい、アポロそのもののような口づけ……
○○「ん……っ」
深く激しく、幾度も唇を重ね合った後に……アポロは私を、きつく抱きしめた。
○○「……アポロ……?」
アポロ「お前が好きだ……」
○○「っ……!」
アポロ「お前がいなければ、もっと早くに……俺は駄目になっていただろう」
アポロ「今夜は……傍にいろ」
その逞しい体に、きつく私を抱きしめたまま、アポロは切なく訴えた。
(どうしたの……? まるで何か、怖がっているみたい……)
私もアポロの背にそっと手を回し、その晩は寄り添って眠りに就いたのだった…ー。